研究活動


(1) 糖タンパク質バイオ医薬品―抗体医薬品など

 日本では、約150種類のバイオ医薬品が承認されています。その多くは糖タンパク質です。糖鎖の構造と不均一性は培養方法などの製造方法によって変化し、有効性や安全性に影響することが知られています。そのため、バイオ医薬品の開発では、糖鎖の構造と不均一性を明らかにすること、糖鎖と生物活性や体内動態などとの関係を明らかにすること、製造方法や糖鎖の管理方法を適切に設定することなどが求められています。創薬再生科学研究室では、質量分析法を用いた糖鎖解析法の開発、新たな方法で製造される医薬品などの糖鎖の最適化、新しいバイオ医薬品の糖鎖構造解析、バイオ医薬品の安定性評価などに取り組んでいます。

 

 

 

技術情報1
WAVE Bioreactorによる連続培養により調製した抗体医薬品の分析 AMED(革新バイオ)2015-2019
iPS由来神経細胞
iPS細胞
LC/MSによる糖鎖解析
遺伝子組換えカイコ(農研機構さん)で製造された抗体医薬品の分析 
農水省委託研究(蚕業革命)2017-

 

 






(2) 細胞加工製品等―iPS細胞など

■神経分化と糖タンパク質
 細胞表面はたくさんの糖タンパク質の糖鎖で覆われています。糖鎖は細胞接着やシグナル伝達など様々な細胞機能に関係しています。また、糖鎖は細胞の分化やがん化などに応じて変化します。ES細胞やiPS細胞表面に特異的に結合している糖鎖抗原は、未分化状態を評価する分子マーカーとして広く利用されています。私たちは、グライコプロテオミクスにより、iPS細胞が神経細胞に分化する過程で多くの糖タンパク質が新たに出現することや、糖鎖修飾が変化することを見出しました。これらはiPS細胞由来神経細胞の分化段階の評価や品質管理に利用できる可能性があります。

■分化指向性と糖タンパク質
 iPS細胞は細胞株により分化しやすい臓器が異なるといわれています(分化指向性)。分化指向性の予測は、細胞加工の効率化に役立ちます。私たちはデータ非依存的MS/MS取得法などを用いて、分化初期に生じる糖タンパク質や糖鎖などのプロファイルの変化を明らかにすることで、分化指向性を予測する研究に取り組んでいます。

 

技術情報2技術情報2

                       

   







(2)糖タンパク質診断マーカー等

 生体内のほとんど全ての膜タンパク質や分泌タンパク質は、糖鎖修飾されています。細胞の悪性化が進むと、糖鎖生合成を担う糖転移酵素(糖鎖遺伝子)の 転写活性レベルの変動により、糖鎖部分の組成や構造、付加位置(糖鎖不均一性)の変化が、特定のタンパク質または付加位置選択的に生じます。このことから、糖鎖を含むペプチド配列は、新たな診断マーカーや分子標的治療薬のターゲット“糖ペプチド抗原”として注目されています。  私たちは、横浜市立大学附属病院と共同で、グライコプロテオミクス技術を用いて大腸がんや膵がん臨床検体(血清・組織)の糖ペプチドを網羅的に解析することで、がん特異的な糖ペプチド(グリコフォーム)の同定を目指しています。がん部では一部のタンパク質の糖鎖修飾に変化が生じることを見出しており、 将来的には、がんの診断マーカーや分子標的治療薬の開発へと繋げたいと思っています。