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細胞極性 (細胞の非対称性) とは? 漠然としてつかみどころのない言葉ですが、「生命の基本単位」としての細胞の本質を如実に示す特質が、この細胞極性(右図参照)です。 熱力学第2法則の支配する物質世界においては、動的に秩序ある形態が発展するということはありません。しかし、生命はこの地球上でそれをやりあげています(そして、それが出来なくなったときは死を迎えます)。物質世界の流れに逆らって、生命がいかにこの秩序の自己形成(自己組織化)を可能にしているのか、その謎を解くカギは生命の基本単位、細胞の中にあります。 一番分かりやすい例は、右図の左上の線虫の受精卵です。受精する前には細胞の中はほぼ均質であると言われていますが、精子と受精すると、不思議なことにその内部で物質の偏り(2極化)が自然に起こり、それがその後の複雑な個体への発達(発生)の駆動力となっていきます。一方、成長して出来上がった身体の内部にみられる多様な細胞にも、様々に発達した「細胞極性(非対称性)」が見られます。顕著な例は、「生物の表面を覆い、身体の外部と内部に接する細胞の膜を非対称にすることによって生き物の内部環境を外部から守ってくれている上皮細胞」や、「局所で受けとった信号を遠く離れた部位に送るために、入力を受ける部分と出力する部分に大きく2極化している神経細胞」などがそれに当たります(右図参照)。 |
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細胞極性を普遍的に制御するPAR-aPKC分子群 自然には見られないこうした細胞内の物質の非対称化/極性化は、「生きているという状態」を生み出し維持している根源的、本質的な現象であり、どうしてこのようなことが細胞の内部では可能になっているのか、古くから多くの生命科学者が強い関心を持ってきました。 そうした中、上記の様に多様な形で観察される「細胞の極性化(非対称化)」現象が、なんと、進化的に保存された一握りのタンパク質群(PAR-aPKC分子群)によって制御されていることが、近年明らかとされてきました(右図:この発見の経緯については、別途参照)。具体的には、「aPKC, PAR-3, PAR-6という3つの分子群」と「PAR-1と呼ばれる分子(あるいは、それに代わるLgl等)」が、相互に抑制しあうことによって細胞の二極化を引き起こす」という機構が、様々な細胞で普遍的に起こっていることが示されてきました。そして、対局的に局在するaPKC/PAR-3/PAR-6複合体、およびPAR-1(あるいはLgl)が、それぞれの領域で細胞特異的な下流因子の制御を行い、細胞のグローバルな極性化を引き起こすことが明らかとされてきました。多細胞生物の誕生とともに生まれてきたと考えられる、生命にとって根源的に重要なこの分子装置を「PAR-aPKCシステム」と呼んでいます。 |
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PAR-aPKCシステムの機能は生命の維持にとって死活的であり、その異常は種々の疾患に関連している。 生命の本質に関わる働きをするということから容易に想像できるように、「PAR-aPKCシステム」の機能の異常は、生命の存立に決定的な障害を引き起こします。すなわち、PAR-aPKC分子群の遺伝子の欠損は、多くの生物で胚発生の異常を引き起こすことがすでに示されてきています。一方、何らかの理由で、身体の基本構造が出来てから、このPAR-aPKCシステムの機能、あるいはその下流における制御標的の機能に異常が生じた場合には、様々な身体の機能異常を引き起こすことが予想され、実際、腎機能異常や上皮細胞の癌化などに結びつくことが示されています。そして、そうした異常が起こるメカニズムは、右の写真に見られるように、培養上皮細胞、神経細胞においてPAR-aPKC分子群の欠損が引き起こす細胞極性異常を、分子細胞生物学的に調べることで、分子レベルで解明することが可能となります。 当研究グループでは、以上のPAR-aPKCシステムの研究を展開する中で、微小管制御キナーゼであるPAR-1の結合タンパク質として、MTCL1を同定し、新たな極性制御研究を進めています。 |
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