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第13回日本蛋白質科学会年会ワークショップの報告。


鳥取で開催された第13回日本蛋白質科学会年会では、二つの天然変性蛋白質関係のシンポジウム・ワークショップが開かれました。

ワークショップA :「天然変性タンパク質を標的とした創薬」
オーガナイザー :西村 善文(横浜市立大)、佐藤 衛(横浜市立大)

講演者     :

西村 善文(横浜市立大)、福西 快文(産総研)、伊藤 幸裕(京都府立医科大)、
中野 洋文(北里大)、佐藤 衛(横浜市立大)

ワークショップB :「計算/情報科学で迫る天然変性タンパク質」
オーガナイザー :太田 元規(名古屋大)、肥後 順一(大阪大)

講演者     :

寺川 剛(京都大)、白井 伸宙(大阪大)、Patil Ashwini(東京大)、
小池 亮太郎(名古屋大)、森次 圭(理研)


たくさんの方に参加していただき、活発な議論が出来ました。以下に参加された方の感想を掲載いたします。ぜひお読みください。
大阪大学蛋白質研究所 肥後 順一


第13回日本蛋白質科学会年会ワークショップ「天然変性タンパク質を標的とした創薬」、「計算/情報科学で迫る天然変性タンパク質」に参加して

 6月12日から14日にかけて日本蛋白質科学会年会が鳥取市のとりぎん文化会館で開催された。台風が接近するとの予報があり天候を心配したが、3日とも好天のうちに学会に臨むことができた。本大会では新学術領域「天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現」によって2つのワークショップ(「天然変性タンパク質を標的とした創薬」、「計算/情報科学で迫る天然変性タンパク質」)が企画された。いずれの会場も大変盛況で活発な議論がされており、天然変性タンパク質研究の熱気を感じることができた。
「天然変性タンパク質を標的とした創薬」では天然変性タンパク質をターゲットとした創薬に関する最新の研究成果を聴くことができた。この講演で私が特に興味を持ったのはタンパク質相互作用をターゲットとした阻害剤の研究である。横浜市大の西村先生は神経特異的転写抑制因子NRSFとコリプレッサーSin3の結合阻害剤探索の試みを紹介された。北里大の中野先生はPRISM biolabが開発したβカテニンとCBPの結合を阻害する化合物の開発に関する話をされた。これらの研究は天然変性領域の特性に着目したという点において従来の創薬とは大きく異なっており、今後のこの分野の創薬がますます盛んになっていくに違いないと感じた。
「計算/情報科学で迫る天然変性タンパク質」は若手研究者の計算・情報科学的なアプローチによる天然変性タンパク質への取り組みの講演が行われた。横浜市大の森次先生はMSES法を使った天然変性タンパク質Sortaseの動的な構造のサンプリングに関する講演を行った。京大の寺川先生は粗視化MDを使いp53のC末端ドメインがDNAを走査する様子を再現した研究成果を報告した。阪大の白井先生の統計力学モデルから導いた分子密度が高いときほど天然変性タンパク質間の相互作用が増加するという仮説は興味深かった。東大のPatil先生は天然変性領域の配列保存性とアミノ酸組成の講演をされた。天然変性タンパク質の配列レベルでの分類は進んでいないが、アミノ酸組成の保存性に基づく分類に今後の進展を期待したい。名大の小池先生はCARMIL結合がおよぼすキャップタンパク質のアロステリック変化をMDとMotion Tree法によって解析した結果を講演された。いずれも天然変性タンパク質を解析するための新たな手法を導入しており、天然変性タンパク質研究自体がバイオインフォマティクス研究にも新たな影響をもたらすのではないかと感じた。
これまで天然変性タンパク質研究は基礎研究が重点的に行われていると考えていたが、これらのワークショップに参加して、天然変性タンパク質研究はすでに応用・実用研究へと発展している、ということを実感することができた。


前橋工科大学 河合 洋介

第13回日本蛋白質科学会年会ワークショップ「計算/情報科学で迫る天然変性タンパク質」に参加して

 新学術領域「天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現」との共催により6月13日に開催された標題のワークショップでは、計算手法により天然変性タンパク質(IDP)の研究に取り組む5名の若手による講演が行われました。最近は計算というとスパコン京に代表されるような大規模計算に注目が行きがちですが、ターゲット研究に対する計算アプローチについてまとめて議論する場となり、非常に有意義だと感じました。
講演では、構造サンプリング手法から個別ターゲットに対する全原子シミュレーション、また、粗視化したレベルでの分子動力学シミュレーション(p53がDNAに特異的に結合していくムービーがいつもながら印象的でした)やIDPの持つ一般的性質の物理化学的理解を目指した統計力学モデル、さらにバイオインフォといった、幅広いテーマに関して発表が行われました。若手ということで、レビュー的な話ではなく最近の解析結果ばかりであり、領域外である私にとっては新鮮で非常に興味深かったです。総じて、実験データの補完にとどまらず、IDPの構造ダイナミクスの解析など計算として独立した新規的な仕事の発表であり、(情報科学も含めた)計算手法一つとっても多角的な研究が行われていると感じました。IDP研究のアプローチとして、代表的なIDPに対して(実験と組み合わせて)集約的に研究することによりIDPの一般論を抽出するか、個別のターゲット研究からの知見を積み上げることでこれを実現するか、両方ありますが、このあたりの方向性を実験手法との関わりを含めつつ概要説明していただけると、領域外の一般聴衆によりわかりやすくなったのではないかと思います。
最後になりましたが、本領域のメンバーでないにもかかわらず発表の機会を与えていただいたオーガナイザーの太田先生と肥後先生に感謝いたします。


横浜市立大学大学院 森次 圭


第13回日本蛋白質科学会年会ワークショップ「計算/情報科学で迫る天然変性タンパク質」に参加して

天然変性蛋白質(IDP)は一定の立体構造を持たない蛋白質であるにも関わらず、複数の結合相手を認識することで、ハブ蛋白質としての機能を発揮する不思議な生体分子である。天然変性蛋白質(IDP)の機能を明らかにするためには、IDPの変性構造がどのような動きをしているのかを明らかにすることが必須である。しかしながら、従来の全原子分子動力学シミュレーション(MD)では、多様な構造を持つ変性構造をサンプリングすることは不可能であった。この問題へのアプローチとして本ワークショップでは、従来のMDと粗視化シミュレーション(CGMD)を新しい発想で組み合わせた方法や、新しい動的構造解析方法を開発した研究が若手研究者達によって発表された。
横浜市立大学大学院の森次らは、CGMDで得られたIDPの構造変化を参照しながら全原子MDシミュレーションを行う新しい手法(MSES)を開発し、Sortaseの天然変性領域が基質ペプチドを認識・結合するメカニズムを明らかにした。MSESは少ない計算量で、原子分解能と効率的な構造サンプリングを両立できる画期的な方法であり、また計算結果は使用するCGMDポテンシャル関数のモデルに依らない。手法の複雑さはあるものの、従来の構造サンプリング手法よりも一歩進んだ手法であり、IDPに限らず蛋白質間相互作用のメカニズム等も原子レベルで明らかにすることが期待される、非常に有効な方法と感じられた。
また、京都大学大学院の寺川らは、CGMDに全原子MDで得られた構造揺らぎの情報を取り込むことで、従来のCGMDよりも信頼性の高いポテンシャル関数を構築する方法を発表した。構築されたポテンシャル関数を用いたCGMDは、溶液X線小角散乱などの実験データを従来法より格段に良く説明できるようになり、方法の有効性を実証していた。寺川らはこの手法を用いて、転写因子p53がDNA上にてどのように認識配列を探索するかをシミュレーションし、アセチル化の有無で認識過程に違いが生じるメカニズムを説明することに成功した。原子レベルではないが、寺川らの新手法もIDPの機能解明には不可欠な手法の一つになると思われる。
名古屋大学の小池らは、CARMIL蛋白質のIDP領域が制御する、アクチンフィラメントキャップ蛋白質CPの機能制御機構をMDによって明らかにした。CP構造上のCARMIL結合領域とキャップ領域は全く違う表面にあり、この制御機構にはCPの複雑な動的構造が絡むアロステリック機構があると思われる。小池らはCARMIL結合の有無で生じるCPの動的構造の差異を、複雑な動きを解析できるMotion Tree法を開発することで明らかにし、そのアロステリック機構について重要な知見を与えた。今後のMDには、酵素のドメイン運動といったシンプルな蛋白質の動きだけではなく、多数のへリックスの相対配置変化を伴う膜蛋白質の構造変化を解析することが求められていることを鑑みると、Motion Tree法といった新規構造変化解析法はより重要になってくるだろう。
本ワークショップで発表されたシミュレーション手法・解析手法はいずれも、若手研究者による従来の方法に捉われない新しい発想に拠るものであり、IDPのような新しい領域の研究を大いに発展させる可能性を感じた。


慶應義塾大学 苙口 友隆


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