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シンポジウム&領域会議

第1回 ISIDP 国際シンポジウムが開催されました。



2011年1月27-28日に横浜市にあるはまぎんホール・ヴィアマーレにて、第1回ISIDP国際シンポジウムが開催されました。


27日 シンポジウムの様子懇親会の様子28日 シンポジウムの様子シンポジウムの報告

< 27日 シンポジウムの様子 >


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< 懇親会の様子 >


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< 28日 シンポジウムの様子 >


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< シンポジウムの報告 >
今回のシンポジウムの報告をして頂きましたので、ご覧下さい。

  西村 善文  中川 洋  伊倉 貞吉

第1回天然変性タンパク質国際シンポジウム報告
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 西村 善文

第1回天然変性タンパク質国際シンポジウムは2011年1月27日と28日によこはまヴィアマーレで開催された。開催に当たっては新学術領域研究の発足にふさわしく天然変性タンパク質に関する著名な研究者を広く海外から招待し日本における第1回国際シンポジウムとして名実ともに充実したシンポジウムとすることを試みた。また班員以外にも広く公開することを主眼点にして、横浜の桜木町駅前の会場で開催することにした。
実際主催者の意気込みに呼応して天然変性タンパク質の分野で著名な海外の研究者が大勢参加した。タンパク質の動的構造をX線小角散乱で精力的に研究を行っているDmitri Svergun (EMBL Hamburg, Germany)がSmall-angle X-ray scattering to study protein flexibility in solutionの講演を行った。NMRで非常に早くから天然変性タンパク質の構造解析を行っているPeter Wright (Scripps, USA)がPromiscuous liaisons: functional interactions of intrinsically disordered proteins in signaling networksの講演を行った。その夜はブリーズベイホテルでバンケットを行ない、参加者間で意見交換を行った。2日目の朝はPeter WrightのところでNMRで最初の天然変性タンパク質の構造解析を報告したRichrad Kriwacki (St. Jude Children's Research Hospital, USA)が特にp21の構造機能解析に主眼点をおいてProtein Flexibility in Cell Cycle Regulationの講演を行った。天然変性タンパク質に関する情報生物学の観点から招待講演者として最初はM. Madan Babu (MRC LMB, UK)にお願いし彼も来る準備を進めていたが、ビザの関係で急に来日が困難になり、彼の推薦で若手研究者としてNorman Davey (EMBL Heidelberg, Germany)にHow Viruses Hijack Cell Regulationの講演をお願いした。天然変性タンパク質とウイルス中のモチーフとの関連を生物情報科学的に講演しMadan Babeが推薦しただけの事はある非常に面白い講演であった。天然変性タンパク質に関する生物情報科学としてはPeter Tompa (Hungarian Academy of Sciences)と Keith Dunker (Indiana Univ., USA)が研究者としてだけではなく天然変性タンパク質関連のシンポジウムのオーガナイザーとしてや数多くの総説を書いていることで著名である。今回2人とも本シンポジウムで講演することになりTompaはStructural disordered and chaperone activity of plant dehydrins in vitro and in vivoの講演を行い、DunkerはProtein Intrinsic Disorder and Cell Signalingの講演を行った。
海外からの講演者に加えて本学術領域研究の計画研究代表者を中心に講演を行ったがここでは省略したい。本シンポジウムでは天然変性タンパク質の動的構造を実験的にSAXSとNMRで行う両大家に加えて、生物学的な観点からの発表とさらに情報生物学からの観点からの発表があり、構造生物学、分子生物学・生化学、情報生物が融合した非常に良いシンポジウムとなったと思われる。全ての講演の詳細を紹介するスペースはないが、ここでは筆者の本シンポジウムでの感想を簡単に書いておきたい。
構造生物学のセントラルドグマは「アミノ酸配列-タンパク質の立体構造-機能」である。各段階で解決すべき問題があり、アミノ酸配列が立体構造をどのように規定しているかはフォールデイングの問題として未解決であり、立体構造と機能の相関も網羅的なタンパク質構造解析プロジェクトが期待していたよりは不明な場合が圧倒的に多い。しかし、ケンドリューやペルツのX線結晶構造解析以来構造生物学のセントラルドグマは大きなパラダイムとして分子生物学の根幹として考えられてきた。日本においてもタンパク3000プロジェクトやその後のターゲットタンパクプログラムで特にX線結晶構造解析が進行し大きな成果を上げている。その様な中にあって新たなパラダイムの出現が天然変性タンパク質の問題である。アミノ酸配列からタンパク質の変性状態が規定され変性状態のタンパク質がcoupled folding and bindingで機能するという全く新しいパラダイムの出現でその事を最も強調していたのがDunkerでありその概念の独創性をいち早く提唱してきたという観点からの発表であった。その多くは既に彼のいくつかの総説で述べてきたことをまとめて示したものであるが、今までの構造生物学のセントラルドグマが間違っている事を強調する彼のエネルギーにはやはり感心させられるものであった。彼を招待するに当たり、彼自身は何回か日本に来て天然変性タンパク質に関する講演を行ってきたことを強調し、その中から日本の天然変性タンパク質の研究が進展してきたという思いこみが最初は強かったようである。しかし日本人の研究発表を幾つか聞いて、日本における発展の独自性も認めているようであった。その意味でPeter WrightはNMRを用いて早くから天然変性タンパク質の相互作用の研究を行い、日本には何回も来て講演を行っているので、日本における貢献度ではPeter Wrightの方が大きい。しかし、NMR関係者に限定されるかもしれない。X線結晶構造解析をメインに行ってきた研究者にとっては、今回の国際シンポジウムで初めて天然変性タンパク質の重要性を認知した人も多いと思われる。
天然変性タンパク質ではハブ性が問題にされるが、その例として非常に有名なのはp53のC末ドメインである。同じ領域が違う相手と結合する事によって構造が変化している。またもう一つ議論がなされていた点として巨大タンパク質中のサブユニットの問題がある。例えばリボソームタンパク質の場合には単独では変性状態で、リボソーム中で構造を取る例がある。リボソームの機能という点から単独のリボソームタンパク質サブユニットには機能がない時はこのサブユニットを天然変性タンパク質と呼べないだろう。ただし、ある種のリボソームタンパク質の場合には単独でリボソームと全く別の機能を持っている例が報告されてきた。その場合には単独で機能すると考えられ、その範疇では天然変性タンパク質といってよい。また天然変性タンパク質同士の結合に連結した構造形成の問題も幾つか報告されてきた。
Peter Wrightの報告は今までも日本で何回か聞いたのでその意味では目新しい内容はないものの、やはり全体として聞いていると、非常に重要な話がいくつかあった。転写活性化のためのコアクテイベータのCBPに関して網羅的に相手との相互作用を検討する講演は相変わらず迫力があり、またアデノウイルスのE1Aの天然変性タンパク質の機能解析も圧巻である。特にE1Aに関しては我々も含めて幾つかのグループがその重要性から構造解析をトライしてきたが、溶解度や発現量の問題からほとんどが失敗してきた中で粘りに粘って複合体の構造解析まで持っていったのはさすがにすごいというのが私の個人的な感想である。特にE1Aはpromiscousに相手と相互作用するという点で、球状タンパク質と異なる天然変性タンパク質独自の認識機構を際立たせ非常に興味深いタンパク質である。またp53のN末の転写活性化部位がCBPの様々な部位と相互作用しリン酸化によって相互作用様式が変わってくる点も非常にきれいな図で説明した点も、今までの球状タンパク質同士の認識機構と異なることがアピールされていた。今までは概念的な相互作用の説明で球同士で説明されていたのが、図では紐同士で説明され、その意味でも構造生物学のセントラルドグマ「アミノ酸配列-タンパク質の立体構造-機能」が古いパラダイムで天然変性タンパク質で全く新しい構造生物学のパラダイムが出現したといってよい。
もうひとつ今回強調すべき講演はNorman Daveyの講演である。様々なウイルスの発現タンパク質中のモチーフを例として何故短いペプチドからなるモチーフが相互作用として重要かということを天然変性タンパク質の観点から非常にきれいにまとめていた。非常に短いペプチドが普段はフラフラしていて相手との結合に伴って構造を形成することは、天然変性タンパク質の基本概念であり、当たり前の内容でありながらインパクトの大きな発表であった。少なくとも彼を事前に知っている日本人研究者は少なかったので、その意味でも非常に若い彼が来て講演した事は国際シンポジウムとして意義深い事であった。
多くの生物学者はタンパク質相互作用に関してオンとオフの2状態しか考えていないが、天然変性タンパク質が関与する認識機構は非常に複雑である。Peter Wrightが強調した様に、promiscousでしばしば過度的で動的で多様的で非常に広範囲な親和性がありしかも翻訳後修飾で制御されている。天然変性タンパク質の研究者ですらこれらの複雑な現象を全て押えているわけではなく、しばしば研究者間で見解が異なる場合があるが、今回のシンポジウムであらためて相互作用の複雑さが判った研究者も多いと思われる。天然変性タンパク質の機能そのものが生命の多様性を具現化していると言ったら言い過ぎだろうか?いずれにしても今回のシンポジウムはまさに構造生物学のパラダイムシフトが起きている事を聴衆の多くの方に実感させたものであるという事を主催者の一人として強調しておきたい。なお最初は新学術領域の全班員に会場の後ろでポスター発表を行ってもらうことを考えていたのだが最初の予算の心づもりよりも海外から多くの講演者が参加し予算的にできなかった点を班員の皆様にお詫びしたい。最後に本シンポジウムの開催に当たっては領域代表の佐藤先生を始め佐藤研究室や私の研究室のスタッフ等を含め多くの方のお世話になった。あらためて感謝したい。
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第1回 ISIDP 国際シンポジウムに参加して
日本原子力研究開発機構 中川 洋


第1回国際シンポジウムが1月27、28日に横浜で行われた。今回の国際シンポジウムは、海外からも天然変性タンパク質を研究する著名な研究者が集い、非常に活気あふれるシンポジウムとなった。天然変性タンパク質は決まった立体構造を取らず、溶液中で構造が揺らいでいる。そのため如何にその揺らいだ構造を解明するかが重要である。計画研究のA01では、このような動的構造の測定法に取り組んでいるが、今回のシンポジウムでもSAXS、NMR、質量分析など様々な測定法の研究が紹介された。私自身は中性子散乱による研究を行っているが、MD-SAXSのように計算機シミュレーションを組み合わせた研究や、他の実験手法で得られた結果との比較が今後の研究で重要になると感じた。また初日の夜は懇親会が行われ、多くの参加者で盛況であった。私も参加し、多くの人と議論や情報交換をすることが出来た。シンポジウムには製薬関連の企業関係者の方も多く来られていたようで、企業の方と話をする機会があったが、この中で非常に印象的なことがあった。これまでは創薬研究の中で、重要な局面でしばしば天然変性タンパク質と遭遇することが多かったそうだ。企業の研究ということであまり詳細をお聞きすることは出来なかったが、そのようなこれまでの経験から、これからは企業での創薬研究においても、天然変性タンパク質に真っ向から取り組んでいかないといけないという考えがあるそうである。今はまだ天然変性タンパク質の研究は、基礎研究としての側面が強いかもしれないが、この新学術領域での研究は、基礎研究としての価値だけでなく、近い将来に創薬に結びつく重要な研究であることを認識することができた。このような他の研究者との議論を通じて自身の研究の位置づけを再確認することができ、非常に有意義なシンポジウムとなった。
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第1回 ISIDP 国際シンポジウムに参加して
東京医科歯科大学 伊倉 貞吉


1月27、28日の二日間、本領域としては第1回にあたる国際シンポジウムが横浜のはまぎんホール・ヴィアマーレで開催され、ドイツ、米国、ハンガリーからの6名に国内からの12名を加えた総勢18名の講演者により多種多様なIDPに関する話題が提供されました。せっかくの機会ですので全部の演題についてコメントをしたいところですが、限られた字数では、一講演あたり140字どころか50字がせいぜいになってしまいますので、私にとって最も印象的だった二題を取り上げて感想を述べさせていただくことにします。
お一人目は、D. Svergun博士(EMBL Hamburg, Germany)で、X線小角散乱法によって溶液中の生体高分子の構造を研究されています。本シンポジウムでは、博士の一連の研究の中から、IDPに関わるものをほんの一部だけ、しかし、私の感覚では膨大な量の研究成果を披露していただきました。中でも、タウタンパク質に関する研究は、アイソザイムまで含めた広範囲な配列を対象にそれらの溶液中の構造と硬さなどを調べたもので、最近タウタンパク質研究の看板を掲げたばかりの私にとっては驚異であり、また、貴重な情報源でもありました。結局のところ、自動温度クエンチ装置などのハイテクを駆使しても、タウタンパク質は配列中央部に伸展した少々硬めの領域がある以外には構造を持たない完全なIDPだということがわかったに過ぎないとのことで、ほっと安心する反面、タウタンパク質の構造研究の険しさを改めて認識させていただきました。博士とは、ご講演の後、さらにもう少し突っ込んだ話をさせていただき、個人的には大変有意義でした。
もうおひとかたは、P.Wright博士(Scripps, USA)で、今回は転写制御ネットワークのハブを構成するCBP/p300とp53やE1Aなどとの相互作用をご紹介いただきました。これらのタンパク質はいずれも典型的なIDPであり、IDP同士の相互作用がいかに多様であり、一筋縄では捉えられないということをまざまざと見せつけていただきました。
今回のシンポジウムを通して私にとっての最大の収穫は、「私たちはIDPのことを、まだ、ほとんど何も知らない」という現実を自覚したことだったかもしれません。

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