構造生物学実習2003におけるXfitの使用法

橋本 博
June 19, 2003

0.はじめに

XtalViewはD. M. McRee氏によって開発されたタンパク質結晶構造解析をおこなうためのプログラムパッケージの一つである。結晶構造解析に必要なソフトウエアはほとんど含まれている。 今回の実習では、XtalViewに含まれるグラフィックソフトXfitを使用し、Lysozymeを対象にX線結晶構造解析におけるタンパク質分子モデルの構築を体験する。

流れ

リゾチーム分子は129アミノ酸から構成されている。電子密度を元に構築した部分構造(ポリアラニンのへリックス)を初期モデルとする。
電子密度を見ながら、アラニンから実際のアミノ酸に置き換えていき、二次構造予測を照らし合わせながら、 そのへリックスが、リゾチーム分子のどこの部分に相当するかを検討する。

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1.準備
2.電子密度と部分構造(ポリアラニンのαへリックス)の表示
3.二次構造予測をもとに、アミノ酸を置換

1.準備

ホームディレクトリに作業ディレクトリをつくる。

% cd
% mkdir xtalview

作業ディレクトリに実習に必要な座標(PDB)と電子密度(MAP)ファイルをコピーする。

% cd xtalview
% cp /home/share/xray/2003/ala_helix.pdb .
% cp /home/share/xray/2003/lysozyme.map .

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2.電子密度と部分構造(αへリックスのポリアラニンモデル)の表示


作業ディレクトリで

% xfit

を実行すると、Xfitのメニューウインドウと真っ黒なウインドウが表示される。

Xfitのメニューウインドウ

@lysozymeと入力しEnterキーを押す。(格子定数と空間群が読み込まれる )
AFiles...を左クリックすると、電子密度(マップ)や座標(PDB)を読み込ませるウインドウが現れる。

 


@A lysozyme.mapala_helix.pdbを右クリックするとファイルが選択される。
B Load/wirte Mapクリックし、Load Fsfour Format Map (*.map)を選択する。
C Load Modelを左クリックする。
BとCの操作によって電子密度とαへリックスのポリアラニンモデルが黒いウインドウに現れる。
Dを左右に動かすことで、画面の奥行き(厚み)を変えることができる。
読み込んだらウインドウ右上の×を左クリックしてFilesのウインドウを閉じる。

表示されている分子は、炭素原子が黄色、窒素原子が青色、酸素原子が赤色で表現されている。(水素原子は白、硫黄原子は

XfitのメニューウインドウでContours...を左クリックすると電子密度の表示を変更するContourウインドウが現れる。

 

@のレベル()を左右に動かすことで、表示される電子密度の範囲を変えることができる。
6くらい表示すれば十分である。(あまり表示範囲を大きくしてしまうと、動きが遅くなる)
表示されている電子密度は、その強度レベルに応じて5段階に色分けされている。通常レベル1のみを表示するので、ほかの2 - 4のレベルは表示しない。@〜Dを左クリックして、レベル2から5の電子密度が表示されないようにする。

Xfitで分子みる方法(マウスの操作法)

左クリックしながらマウスを動かすと分子が回転する。
中クリックしながらマウスを動かすと分子が並進する。
左中を同時クリックしながらマウスを動かすと分子が拡大・縮小する。

XfitのメニューウインドウでModel....を左クリックすると現在読み込まれている構造の情報をみることができる。

左側のResidues:の欄には、現在表示されているモデルの配列と残基番号が表示されている。
@例えばALA513を選択して(クリックして)、AGo Toを左クリックすればALA513のCαが画面の中心にくる。

 

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3.二次構造予測をもとに、アミノ酸を置換

リゾチームのアミノ酸配列からの二次構造予測

> Lysozyme - chicken egg white - 129 aa, Molecular Weight 14 kDa
KVFGRCELAA AMKRHGLDNY RGYSLGNWVC AAKFESNFNT QATNRNTDGS
TDYGILQINS RWWCNDGRTP GSRNLCNIPC SALLSSDITA SVNCAKKIVS
DGNGMNAWVA WRNRCKGTDV QAWIRGCRL

二次構造予測は以下のサイトを利用した

http://bioinf.cs.ucl.ac.uk/psipred/psiform.html

現在表示されている電子密度とポリアラニンモデルを一つずつ見て、側鎖の電子密度の特徴を把握する。
正しいと思われるアミノ酸に置き換えながら、二次構造予測と照らし合わせ、このポリアラニンモデルのへリックスがどのへリックスに対応するか考えてみる。

側鎖の置換方法

XfitのメニューウインドウでModel....を左クリック

@置換したい残基を選択
Bクリックするとアミノ酸のリストが現れるので、置き換えるアミノ酸を選ぶ
CInsert Resクリックし、Replace and Fitを選択すると、アミノ酸が置換され、かつ自動で電子密度にフィットする。
置き換えた後に、側鎖が電子密度にフィットできない場合は、間違ったアミノ酸に置き換えた可能性が高いので、たのアミノ酸を検討する。

このようにして501から513までのアラニンを実際のアミノ酸に置き換えていく。

ヒント:
比較的大きな側鎖(芳香族アミノ酸など)に注目する。
20種類のアミノ酸の構造を参考にしながら、側鎖を推測する。
とにかく、特徴的な(大きな)側鎖の電子密度を持つものを、他のアミノ酸に置換してみる。明らかに間違っているかどうかは、結果を見れば一目瞭然である。
水素原子は無視する。
電子密度からだけでは、グルタミン酸とグルタミン、アスパラギン酸とアスパラギンを区別することは難しい。アミノ酸配列から判定するしかない。

バリンの電子密度に、誤ってヒスチジンに置換した例

ヒスチジンの側鎖が、電子密度からはみ出ており、フィットさせることができない。

グルタミン酸の側鎖を電子密度にフィットさせた例

正しいアミノ酸に置換すると、下図のように、アミノ酸の側鎖が電子密度にきっちりとフィットする。

 

20種類のアミノ酸の構造
(タンパク質 構造・機能・進化 G.E. Shlulz, R. H. Shirmer著 大井龍夫 監訳 科学同人 より転載)