研究テーマ / Our interests...
われわれは、細胞膜上でのシグナル伝達、特に1回膜貫通型タンパク質を介したシグナル伝達を取り上げ、細胞外からのシグナルの受容と膜を隔てた細胞内へのシグナル伝達の仕組みを分子・原子のレベルで理解することを目指し研究を進めています。
膜タンパク質を介したシグナル伝達の分子機構を明らかにする
/ Elucidating molecular mechanism of TM signaling
動物や植物などの高等で複雑な生物も、大腸菌のようなバクテリアも、全ての生き物は、細胞から出来上がっています。それぞれの細胞は脂質でできた細胞膜によって外界と隔てられており、イオンや有機物のような形ある物だけでなく、細胞内外で何が起きているのかという情報も、膜を越えて自由に行き来することは出来ません。細胞内外の物や情報の行き来は、多くの場合、膜に埋もれたタンパク質(膜タンパク質)によって行われており、このうち情報の行き来は、受容体と呼ばれる膜タンパク質 によって行われています。細胞の外側で信号物質からの情報を受け取った受容体は、自身の形を変えたり、受容体同士で寄せ集まったりすることで、膜を隔てた細胞の内側へと情報を伝えていると考えられています。しかしながら、情報伝達の過程で具体的にどのような変化が起きているのかということは、多くの受容体について、まだよく分かっていません。そこでわれわれは、X線結晶解析などの立体構造解析手法を用いることで、「受容体や信号物質の形」、「受容体と信号物質の結合の様子」、「信号物質の結合によって引き起こされる受容体の形の変化」などを捉えることを目的にして研究に取り組んでいます。
1回膜貫通型タンパク質の形と動きをとらえる
/ Analyzing structure and dynamics of 1TM proteins
タンパク質は20種類のアミノ酸が決まった組み合わせと順序で数珠つなぎになった鎖状の高分子化合物であり、その基本骨格をポリペプチド鎖と呼びます。われわれが研究対象としている受容体タンパク質の多くは、ポリペプチド鎖が細胞膜を1回だけ貫いているものであり、細胞の中では膜に固定された状態で存在します。1回膜貫通型のタンパク質は、細胞外、膜内、細胞内の3つの領域からなり、それらが柔軟性のあるリンカーによってつながっています。1回膜貫通型タンパク質の持つ柔軟性は、機能を発現するために必要不可欠な性質であると言えますが、そのような性質があるがゆえに、1回膜貫通型タンパク質の構造決定は困難であることも確かです。そこでわれわれは、X線結晶解析に電子顕微鏡イメージングなどを組み合わせる多角的なアプローチによって、1回膜貫通型タンパク質の全体の形や動きをとらえて行こうと考えています。
動物細胞を用いて複雑な翻訳後修飾を受けた細胞外タンパク質を発現する
/ Producing high-quality protein samples using mammalian cells
われわれが構造解析の対象としている受容体タンパク質の細胞外領域や信号物質として働く細胞外のタンパク質は、糖鎖やジスルフィド結合などの複雑な翻訳後修飾を受けています。そこでわれわれは、より天然の状態に近い高品質の試料をつくることを目的として培養細胞を用いたタンパク質の発現を行っています。