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タンパク質分解誘導剤(PROTAC)の効率的合成手法の開発に成功! 生命医科学研究科 創薬有機化学研究室 許 涵喬さん

2022.09.08
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タンパク質分解誘導剤(PROTAC)の効率的合成手法の開発に成功! 生命医科学研究科 創薬有機化学研究室 許 涵喬さん

生命医科学研究科 許 涵喬さんらの論文が、ChemistryOpenに掲載されました!

生命医科学研究科 博士前期課程2年の許 涵喬さんら研究グループは、固相法*1によるタンパク質分解誘導剤(PROTAC*2)の新しい合成経路の開発に成功し、研究成果が「ChemistryOpen」に掲載されました。
【論文著者】 
生命医科学研究科 博士前期課程2年
創薬有機化学研究室所属
許 涵喬(きょ かんきょう)さん

【論文タイトル】 
「Development of Rapid and Facile Solid-Phase Synthesis of PROTACs via a Variety of Binding Styles」

【掲載雑誌】
ChemistryOpen

研究内容 ~今回の研究内容について許さんに解説していただきました~

PROTAC (proteolysis-targeting chimera) は、E3リガーゼリガンド、標的タンパク質 (POI) リガンド、およびその二つのリガンドを連結するリンカーから構成されるキメラ化合物です。PROTACは、細胞内で不要となったタンパク質を分解するユビキチン・プロテアソームシステムを利用することで、POI分解を誘導することができます(図1)。

図 1. PROTACによるタンパク質の分解メカニズム

 高活性なPROTACを開発するためには、POIリガンドとE3リガンドを繋ぐリンカーの種類や長さを綿密に最適化することが重要です。しかしながら、PROTACは分子量も大きく合成が煩雑になること、物性も悪くなることが多いために、適切な候補化合物を得るまでに多大な労力が必要となります。

そこで本研究では、取り扱いの難しい分子の合成に応用できる固相法を用いて、PROTACの効率的合成に向けた合成経路・反応条件を検討しました。特に多様なPOIリガンド、E3リガンド、リンカー構造に対応できる固相合成経路を立案しました。具体的には、固相上にE3リガンドと、反応性の異なる官能基を導入したリンカーに、官能基選択的に任意のリガンドを連結できるルートを設計しました (図 2)。

図 2. PROTACに用いられる結合様式
 今回は、E3リガントとしてポマリドミド(セレブロンリガンド)、POIリガンドとしてJQ1 (BRD4阻害剤) とTFC007 (H-PGDS阻害剤) をモデルとし、複数のPROTACを固相法により合成し、それらの分解活性をWestern blottingで評価しました (図 3)。
図 3. 合成したPROTACおよび分解活性評価

今回開発した経路によって、複数のPROTAC(化合物1-7)を一度のみの精製で効率的に合成でき、高い分解活性を有するPROTACを見出すことができました。今後は、異なるE3リガンドを用いて合成経路を検討する予定です。

許 涵喬さんのコメント

本研究は、高活性を持つPROTACを迅速・簡便に開発できるための研究です。研究を進める中で、特に反応経路の構築に時間がかかり苦労することもありましたが、無事に一報まとめることができました。出水先生をはじめ、共著の先生方の丁寧で熱心なご指導に感謝すると共に、今後も学位取得に向けて日々、研究を進めていきたいです。

指導教員 出水 庸介 大学院客員教授のコメント

論文アクセプトおめでとうございます!
留学生であることを忘れてしまうほど日本語が流暢で、日々のディスカッション、私の冗談にも的確なツッコミを入れてくれる許さん、2本目の筆頭著者としての発表になります。
学部4年時には、核内受容体であるLXRを標的としたPROTACの合成・評価を行なっていたのですが(1本目の論文)、その際に、合成が煩雑なPROTCを効率的に合成することができないかと考え、今回の論文に繋がるアイデアを出してくれました。修士1年から本テーマに取り組み、無事に論文として纏め上げてくれました。
今後も楽しみながら研究活動に取り組み、成長していく事を期待しています。
 

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